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「台湾・日本サステナブルツーリズム・ダイアログ」 開催レポート

SEMINAR 2026.06.03

「台湾・日本サステナブルツーリズム・ダイアログ」開催レポート

SDGパートナーズは、2026年6月3日にセミナー「日台サステナブルツーリズム・ダイアログ」を開催しました。

本セミナーでは、観光を単なる集客や消費の手段としてではなく、地域社会に価値を生み、自然・文化を守り、未来世代につなぐための営みとして捉え直す議論が交わされました。
登壇者には、下記の3名をお迎えし、台湾における地域コミュニティ主導の観光、日本における先進的なスタディツアーの実践、そして旅行会社や中間支援者が果たすべき役割について、多角的にお話しいただきました。SDGパートナーズ代表の田瀬和夫も、当日はモデレーター兼パネリストとして参加しました。

  • 蔡文宜氏(台北医学大学 助理教授 / 台湾観光地方創生協会 理事長)
    マイクロソフト、HP、Airbnb などで法務・政府渉外分野の要職を20年以上務めた後、2024年よりアカデミアに転身。現在は、企業ESG、サステナブルツーリズム、デジタルトラストを横断的に研究し、自然を活用した体験設計を通じて超高齢社会の課題解決に取り組んでいる。
  • 萬年良子氏(株式会社エイチ(叡知)取締役 CSO / 観光庁観光分科会委員)
    アメリカン・エキスプレス副社長として、日本の企業経営、リーダー育成、組織再生を牽引。2016年よりベルトラに参画し企業価値向上とサステナブルツーリズムを推進。2023年に共同制作ツアーで UNWTO「持続可能な観光賞」を受賞。現在は観光産業への助言・支援や人材育成に携わる。
  • 行廣彩夏氏(株式会社エイチ・アイ・エス 個人旅行営業本部 専門店エリア スタディツアーデスク所長)
    株式会社エイチ・アイ・エスに入社後、一般店舗勤務を経て、学生時代に携わっていたスタディツアーの経験を活かすべく、専門店である「スタディツアーデスク」へ異動。現在は同デスクの所長として、ツアーの企画の造成から販売、添乗業務まで幅広く統括・担当している。

左からSDGパートナーズの代表 田瀬、蔡氏、萬年氏、行廣氏

この記事では、当日の講演・パネルディスカッションの概要をお伝えします。


講演レポート

蔡文宜氏講演:台湾の地域コミュニティが育てるサステナブルツーリズム

講演する蔡文宜氏

蔡文宜氏からは、台湾におけるコミュニティ・ツーリズムとサステナブルツーリズム賞の取り組みについて紹介いただきました。台湾各地の地域コミュニティは、自分たちの文化や生活様式、自然環境を守りたいという強い思いを持つ一方で、必ずしも自らを「旅行サービス提供者」として捉えているわけではありません。そのため、旅行会社との連携、価格設定、受け入れ体制、情報発信には課題が残されています。

蔡氏が理事長を務める台湾観光地方創生協会では、地域をすぐに観光商品として売り出すのではなく、まず地域側のコーチングやメンタリングに時間をかけてきました。観光客の期待は一様ではなく、文化を深く学びたい人もいれば、楽しい体験を求める人もいます。地域側が自分たちの価値をどのような言葉で伝えるか、どの規模の来訪者を受け入れられるか、旅行会社とどのように役割分担するかを学ぶことが、持続可能な観光の前提になると語られました。

今回紹介された台湾のサステナブルツーリズム賞では、20を超える応募チームの中から9チームが選出されました。魚の養殖池と渡り鳥の観察を組み合わせたチーム、台湾伝統の米菓づくりを伝えるカルチャー・キッチン、花蓮の先住民族文化と森林体験を組み合わせたチームなど、地域の記憶や暮らしに根ざした実践が共有されました。

なお、会場ビルに併設されているThink Coffee店内にて、講演で紹介されたこの9チームの挑戦を紹介する写真展も同時開催されました。台湾各地で地域、旅行会社、事業者が連携しながら、自然・生物多様性・文化を守り、持続可能な観光に取り組む現場の姿を伝えました。

萬年良子氏講演:日本における先進事例と「学びの旅」の可能性

講演する萬年良子氏

萬年良子氏からは、日本におけるサステナブルツーリズムの先進事例として、SDGパートナーズとベルトラが沖縄県恩納村で実施した「大人の修学旅行」が紹介されました。このプログラムは、単にサステナブルという言葉を掲げた旅行商品ではなく、旅の前に学び、現地で地域の課題に触れ、旅の後にも対話を重ねる構成で設計されたものです。

恩納村では、サンゴ礁の再生活動、赤土流出、観光開発、地域住民の暮らしなどが複雑に結びついています。参加者は現地の人々と対話しながら、サンゴ礁を単なる美しい自然ではなく、地域の暮らしや観光の持続可能性を支える基盤として学びました。この取り組みは、第7回ジャパン・ツーリズム・アワードでUNWTO賞を受賞しています。このように、安く大量にツアーを出すのではなく、参加者の生き方や価値観が揺さぶられるような旅をどうつくるかが大切です。また、星野リゾート(30年に及ぶサステナブル、環境経営の実績)、ワールド航空サービス(国内でも地域との共生に立脚した深いツアーを造成)、風の旅行社(現地スタッフや専門家同行の少人数、サステナブルツアーの先駆け)の事例にも触れながら、安さや効率だけではない「本質的な旅」の重要性、旅行産業が今後、益々、その真価を問われる「付加価値提供や社会的意義」が語られました。

一方で、日本には旅行会社も旅行商品も多いにもかかわらず、サステナブルツーリズムの好事例はまだ多くないという課題も示されました。

田瀬和夫氏コメント:観光は、旅行者と地域の双方のマインドセットを変える

田瀬和夫氏からは、「大人の修学旅行」の開発に関わった立場から、観光には少なくとも旅行者と受け入れ地域という2つのステークホルダーがあり、場合によっては両者をつなぐ旅行会社やエージェントを含めた3者の関係として考える必要があるとコメントがありました。

旅行者が訪問先について何も知らなければ、旅から深く学ぶことはできません。逆に、その土地の人々、歴史、課題を知ることで、旅行者はより思慮深く、配慮ある姿勢で地域と関わることができます。サステナブルツーリズムは、すぐに大きな利益を生むものではないかもしれませんが、今後主流化していくべき大きな可能性を持つ領域であると述べられました。


パネルディスカッション

テーマ1:サステナブルツーリズムを広げるうえでの課題

ディスカッションにおいて、サステナブルツーリズムを広げるうえでの課題は、旅行者へのプロモーションの難しさが挙げられました。

行廣氏

台湾では教育旅行向けの情報発信において、訪問先ごとにSDGsの目標が分かりやすく示されています。一方で、日本ではサステナブルな旅やSDGsへの意識がまだ十分に浸透しておらず、「なぜ通常の観光より高いお金を払って参加するのか」という価値を伝えることに難しさがあります。

その解決策として、最初から「サステナブルツーリズム」を前面に出すのではなく、インターンシップ、現地学生との交流、就職活動に役立つ経験など、参加者にとって入りやすい動機を入口にし、その中で地域課題やSDGsに触れてもらう工夫が事例としては存在します。

パネルディスカッションで話す行廣彩夏氏

テーマ2:成功する地域とそうでない地域の違い

成功するサステナブルツーリズムの共通点として、地域住民の存在が挙げられました。地域住民にとって負荷にならず、かつ機会となるような形で活躍できる環境が非常に重要だとされます。

蔡氏

台湾・花蓮の事例をもとに、地域資源が豊かであっても、それを支える人材がいなければ持続可能ではありません。若い世代や地域を担う人が戻り、別の事業で生活を支えながらでも、質の高い体験づくりを継続することが重要です。

萬年氏

日本の地域においては、情熱を持ったリーダーの存在が大きいです。気仙沼のように、商工会や地域の中心人物が「みんなで良い街にしよう」と呼びかけ、人と店をつないでいくことで、地域にエネルギーが生まれます。

行廣氏

ブータンなどのツアー造成においても、地域の人々に「なぜそうするのか」を丁寧に伝え、現地の生活や都合と折り合いをつけながら一緒に考えるなどの工夫の中で、行われています。

テーマ3:旅行会社・中間支援者がやるべきこと、やってはいけないこと

議論の中で繰り返し確認されたのは、旅行会社や中間支援者は、地域を一方的に商品化する存在であってはならないという点でした。一方で、地域側にも、旅行者を受け入れるための準備が必要です。価格設定、手数料、責任分担、ロジスティクス、説明の仕方などを整理しなければ、旅行会社との連携は難しくなります。地域と旅行会社の双方に対するコーチングやメンタリングが、サステナブルツーリズムを広げる鍵であることが示されました。

萬年氏

地域の歴史や文化、住民感情を理解しないまま、外部から「こうすれば売れる」と指示するような関わり方は、信頼関係を損ないます。旅行会社は単なる送客業者ではなく、地域の価値を旅行者に伝える翻訳者であり、地域と旅行者の関係を整える調整者です。


総括

今回のセミナーは、観光を「人を呼ぶ手段」から「地域と旅行者がともに変わる学びの場」へと捉え直す機会となりました。台湾の事例からは、地域コミュニティの実践を可視化し、国際的なネットワークにつなげる仕組みの重要性が見えました。日本の事例からは、旅の前後を含めて参加者の意識変容を設計する「学びの旅」の可能性が示されました。

また、サステナブルツーリズムは、環境保全だけでなく、地域文化、先住民族、ジェンダー、人権、生物多様性、地域経済など、多様な社会課題と接続していることも確認されました。すぐに大きな市場になるものではないかもしれませんが、価値を理解する旅行者と、地域の担い手を丁寧につなぐことで、質の高いニッチ市場として育てていくことができます。

日台双方には、それぞれ異なる強みがあります。台湾は地域コミュニティの実践を外部に開き、発信する仕組みに強みがあり、日本は地域課題を深く掘り下げ、旅行者の学びにつなげるプログラム設計に可能性があります。今後は、台湾の地域を日本の旅行者が訪ね、日本の地域実践を台湾の旅行者が学ぶような、相互交流型のサステナブルツーリズムの展開が期待されます。

お問い合わせ

SDGパートナーズでは、今後も持続可能な観光の企画開発や地域・事業者の伴走支援に取り組んでまいります。サステナブルツーリズムに関するお取り組みや地域での実践、事業連携についてご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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